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ラジオ Radio

どうしても眠れない夜というものを経験したことはないだろうか。

暗く、静かな部屋で感じる孤独感。周りが「眠り」という「無」に落ちている中、自分だけが世界に取り残されてしまったような感覚。

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そんな時決まって起こることは、ネガティブな感情・雑念が自分を支配する状態だ。眠ろうという意志とは裏腹に、意識の流れがとめどなく脳内を循環し、さらに自分を不安に陥れる。

 

そんな私を心配して母が、ラジオを聴いてはどうか、と提案してきた。

就寝前、静かな部屋に好きなラジオをセットし、電気を消してアイマスクをつける。視界は閉ざされ、聴覚のみが私の身体を支配する。ラジオから聞こえる音は、人間同士の会話である。人の会話が聞こえること、そしてそれが自分にとって理解可能な言語で構成されていることは、私の孤独感を安らげる。これが人の声ではなく、音楽の場合は意識の集中という観点ではあまり良くない。音楽は、その解釈の多様性から、過去の想起へと駆り立ててしまうため、意識を散乱させてしまうことがある。

意識を集中させ眠りへと誘うのには、音楽よりも人間同士の会話がいいのだ。私の意識はラジオの内容を追うことに専念するため、雑念の発生する余地を与えない。ラジオをつければ、自分しかいない孤独な世界の隣に、人のいる世界が存在していることを認識でき、安心する。その安心感は、意識が無になって一人になってしまうのではないかという恐怖心を和らげ、心地よい眠りへと誘う

 

この経験は、私とラジオとの関係を明らかに変容させた。暗い寝室にラジオを置くことで初めて出会うラジオの特性があった。それは、静寂な何もない空間を、人のいる安心した空間へと変えるということ。また、その空間にある人の気配・声・安心感が、闇の中をさまよう私の不安定な意識を一点に集め、無意識へと橋渡ししてくれる媒介になりうるということだ。

 

物理的には存在しない世界が、聴覚を通じて作り出され、それが自分の意識の安定につながる。私の内面に新たな世界を作り出してくれたラジオは、陶冶として重要なモノである。

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