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香水

 私は子どもの頃、使いもしない香水を一生懸命に自分の机の上に並べていた。おしゃれに敏感だった叔母の部屋に時々遊びに行くと、彼女のドレッサーの上には様々な形や色のビンが並んでおり、自分の家では決して漂うことのない不思議な香りがしていた。そんな香水の瓶、そして香りに惹かれ、真似をし始めた。自分でも母のお下がりや子ども用の香 水のようなものをとにかく集めた。ドレッサーなんてもちろん持っていない子どもの私は、学習机の上に並べていた。香水を使う場面ももちろんないが、ただ自分の机にかわいい形と色をしたものが並んでいて、それを眺めているだけで大人の女性に近づけたような気がして、満足だった。

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 かつてはある種の「飾り」でしかなかった香水は、今では私にとって必要なものになっている。ビンの見た目はもちろん大事だが、何よりも重要視するのはやはり香り。机の上に並んでいる数も気にしなくなった。外で出会う様々な香りを吟味し、お気に入りだけを自分の机に持ち帰り、毎日出かける前にその香りを纏って外へ出る。いつの間にか、自分の部屋を飾るだけだったものが、自分自身を飾るために不可欠なものへと変わっていた。 いつの間にか、単にものの存在に憧れていただけの自分が、そのものの機能性に目を向けて実際に使用する自分になっていた。

 皆さんにも、自分との関わり方が変わったものはないだろうか。ただ自分の空間に存在させることが目的だったものが、時の流れや自分自身の成長によって持つ目的や理由が変わったもの。自分が大好きなものとの関わり方が変わった経緯を辿ってゆくと、自己形成の過程が見えてくるかもしれない。

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