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書道の額縁

 私は高校で書道部に所属しており、毎年文化祭で展示会を行っていた。この展示会において大変なことは作品作りではなく、会場づくりなのだ。例えば、出来上がった畳一畳ほ どの作品約 50 枚を大きな額縁に一つずつ

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入れていく。この額縁は 1 人では持てないほど 重く、動かすのも一苦労だった。まずは一つ一つの作品に合った額縁を選び、額縁に入れられた作品の配置を検討する。その際、一つずつ重い作品を動かし、実際に並べてみるのだが、これがかなりの重労働であった。部員の多くはこの作業を嫌い、部活を休んでいた。私自身も、書道部の作品を見に来るのは保護者と教員くらいなのだから、そこまでこだわる必要はないし、この作業に時間をかけるくらいならもっといい作品を書くほうがい いのではないかと考えていた。しかし、部⻑であった私は休むわけにはいかず、この作業を嫌々2 週間ほど行った。しかし、いざ完成するとその空間に感動させられた。額縁に入れられ、綺麗に飾られた作品たちが会場を美術館のような空間にしていた。もちろん、普通の高校生が 1,2ヶ月で書いた作品自体にそこまでの魅力があるわけではなかった。美術館を彷彿とさせる構図。観覧者が飽きないように工夫された配置。そしてなによりも、 ただの紙切れを作品へと変えてしまう額縁。額縁で飾られた作品はまるで魂が込められたかのように見え、その空間は異彩を放っていた。墨で書いた一枚の紙切れが「作品」となる瞬間であった。
 高校を卒業した現在でも、私は書道を続けている。高校生の時には文化祭の展示をしていた私が展覧会に入選するほど腕前は上達した。それでもまだ自分の作品に納得がいかず、自分はダメだと思ってしまうことがある。その時はあの光景を思い出し、「額縁」という魔法に望みをかけ、自信を取り戻すのだ。

 このように単なる飾りである「額縁」が作品の魅力を引き立て、一つの作品に仕上げてくれる。みなさんにも単なる「飾り」が飾られたモノをそれ以上の価値にしてくれた経験があるのではないだろうか?

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