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ツーリングテント

 大学生になり、一人暮らしを始めると退屈な時間が増えた。もともと一人で過ごすということにあまり慣れていなかったせいか、家でダラダラと過ごす自分に嫌気がさすことが良くあった。何か始めようと思い、思い切ってバイクの免許を取って自分のバイクも購入した。 しかしバイクを手に入れたものの、仲間もおらず、行く場所がない。

バイクに乗る理由を作るために、ソロキャンプに行くことを思いついた。キャンプは子どものころからよく家族で いっていたため慣れてはいたが、一人で行くのは初めてである。運よく父親のツーリング用テントを譲ってもらえたために、最低限の道具を揃えていざ出陣である。向かったのは東京の奥多摩。東京にもこんな大自然があるのかと感動を覚えた。キャンプ場ではなく、山の中の適当な河原をキャンプ地とした。

 テントを張り終えるころには日が暮れ始めており、急いで適当な木の枝を集めて火を起こした。季節は秋であり、さすがに日が暮れると寒くなってきた。人っ子一人いない夜の山奥で一人は不気味で怖い。一度怖いと思うと、もうすごく怖いのである。急いで火を消しテントに逃げ込んだ。入口の二重ファスナーを閉める。すると、先ほどまで物凄く不気味だったのに、不思議と安心してきた。眠くなったので寝よう。寝袋に入り、ランタンの明かりを消す。完全なる暗闇だ。静寂だが、かすかに川の流れる音が聞こえてくる。そして暗闇に目が慣れてくると、テント内が月明かりで微かに明るいと気づく。
​ この時、一人で来てよかったと感じた。なんとも言えない自然の臨場感とテントが作る安 心感が入り混じったような空間は、「山奥のテントに 1 人」という状況でないと成立しない と断言できる。テントがつくり出す空間は、不気味だった山奥を、親しみやすいものにして くれた。この経験からキャンプにはまり、それまで家にこもりがちだった私は外に行くことが増えた。また、一人でいることは孤独で退屈だと感じていたが、一人で過ごすのもいいものだと思えるようになったのである。

キャンピング
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